EEG脳波信号の秘密

考えてみれば、脳波というのは、1400億個の神経細胞の活動が、ms(一千分の一秒)の
単位で活動している、その電気磁気活動の総体である。最近では、デジタル信号技術の発達に
より、比較的簡単に計測できるので、つい慣れてしまっているが、よくよく考えるととんでも
ないことである。

もっとも我々が今のところ目にすることができるのは、せいぜい数百万個単位の神経活動の結果
であり、そこには既に1万x500万、つまり500億のオーダーの活動が潜んでいる。
今のままでは、単に現象として捉えているに過ぎず、それをモデル化して解析的に考えること
は不可能である。そのためには、少なくても、今の1000から1万倍の精度、
つまり1万個から1000個の単位にまでBreakDown(シナプスレベルでは百万単位)できなければ、
本当の意味で、単一細胞記録との対応が取れた解析ができたとは言えず、その意味で、現在の
EEG脳信号は、未だにミステリーであるといえよう。

単一細胞から始まった細胞記録のほうは、技術の進歩により、2010年の地点で、
数百の神経細胞の記録が同時計測できるまでになっている。これがここ数年で1000個、さらに
一万個までいけば、かなりであるが、その場合も理論が必要になってくるだろう。

この時点で初めて、単一細胞記録とEEGとの共通の基盤ができた、ということになる。

もうひとつのアプローチは、血流とLFP (Local field Potential)との対応をとり、そこから、
脳波との対応を考えるものである。しかしながら、このアプローチの根本的な欠点は、
血流活動は、本質的にメタボリックな活動、即ち2次神経活動であり、それは、神経活動によって、代謝が変化した結果によるものにすぎず、直接的電気活動ではない、という点だ。
即ち、直接的電気活動と2次的な代謝活動の間に、必ずしも一対一の線形活動を推定することは
できず、ゆえに、このアプローチには無理がある。(現在のMRIの理論では、無理に線形近似
をしている。 Logothesisなど。。)

ということで、少なくともあと10年くらいは、脳神経科学の計測において、革命的プロセスが
生じることはないであろう。しかしながら、あと3、4桁精度が上がれば、それにも近づく。
ムーアの法則によれば、1.5年で2倍、つまり6年で16倍、9年で64倍のスピードの
増加がコンピューティングに見られる。とすると、1000倍までいくのは、2^10=1024
なので、2x10年つまり20年必要、即ち2032年、ということになる。


即ちわれわれは、20年後に備えて、理論的枠組みを作っておくことは決して無駄なこと
ではあるまい。

(追記)
シングルセルの進歩も、Digital Technologyに支えられているとすれば、EEGの精度と
多電極計測の制御の両面からの恩恵が考えられるので、20年ではなく、その半分の
10年で、上記のレベルに達するだろう。つまり、2022年、それまでに理論を作って
おく必要がある。