脳神経系と空間情報処理(1)

脳は、約半分の大脳皮質領域を、視覚の成立のために使っているが、視覚の主な目的の一つは、空間認識、つまり、自分の空間を構成することである。

実はその空間は、眼球の中心、中心かと呼ばれるところで遂行される中心視、と視角にして2度から5度までの中間領域、そして、実はあまり空間的には厳密に見えていない(色などあいまい)が、時間的には解像度が高い周辺視と呼ばれる領域がある。これに関してはいろいろな話があるのだが、一番肝心なのは、何故中心視と周辺視が分かれているか、ということだ。

その第一の原因として、計算論的に考えられるのが、計算効率、ということがある。つまり、中心視には、眼球のレンズの構造から、最も情報量が多く集まりやすい。そして、実際網膜の構造もそれに対応して、レンズの中心では、もっとも網膜細胞の密度が高くなっている。しかし、ここにその欠点も存在する。レンズの中心焦点の外の領域では、像が結像しないため、情報にノイズが入る。即ち、像がぼける。そこで、結像焦点を外部の像の
中心に向けるため、眼球を3次元的に動かして、像を結像中心に持ってこなければならない。
 しかし、ここに大きな矛盾が存在する。そもそも外部の像は、周辺部においては、結像中心にないので、ぼけている(ノイズが混入している)ため、はっきりとわからない。それをどうやって見つけるのか。 ここで、視覚系は、大変賢い最適化システムを作り出した。即ち、周辺部においては、いずれにしても像はハッキリと結像しない(原理的にそうだ)ので、それを犠牲にして、ぼやけたものでも、とりあえず動くものを最も検出しやすいように、即ち専門的にいえば、空間周波数処理は犠牲にして時間周波数処理に特化した方法を選んだのだ。つまり、周辺で何か動けば、それを捕まえて眼球を動かし、中心視をそれにもっていき結像させる、という2重システムを編み出したわけである。

更に、一度中心視にて視覚を成立させてしまえば、そこに長くとどまればとどまるほど、他の周辺の部分で新しい物体が現れたときに、それを検出できる確率が下がるので、それをランダムに一定の時間の後に、他にそらすシステム、というのもBuiltInした。
これが、視覚的注意の基本システムである。

視覚の空間処理は、このように、2つのシステム、それを並列に、さらに高度に運営するメカニズムとして成立している。このシステムは、基本的に類人猿のシステムであるが、鳥類や魚類、更には両生類にその基本構造が既に見られる、という点で本能的なものである。
(つづく)