システムとしての視覚系

視覚の目的は、外界を脳に投射する地図を作ることである。

その地図は、リアルタイムに動いていなければならない。

その地図は、リアルタイムに書き換えられなければならない。

リアルタイム、というのは、時間的には100Hz,10msの時間精度、

空間的には573mm離れたところから、1cmの60x60分の2、

つまり約 1/1800 cm、つまり5マイクロメーターが見える

(視角にして数秒)精度である。 

(ちなみに聴覚は、時間解像度 約20,000Hzまで精度が向上)
 
この精度を実現するため、視覚は脳のおおよそ半分を使っている。


このシステムは、数秒保持されなければいけない。

それを実現するため、視覚システムは、ダイナミックに反応する。

つまり、首や体の動きと連動し、目の動きと同期する。

(その時間は、最小300ms、最大2,3秒である)


このシステムを実現するために、さらに残りの半分の半分、全体の

25%の神経資源が使われる。 つまり、視覚系として約75%の

脳を使っている。 さらに、注意、判断、記憶、といった認知系の

半分が使用されていることも含めると、神経系のおおよそ9割が、視覚


に関係する。その意味で、視覚系は脳のエネルギー消費の多数派である。

(後の1割は、情動‐感情系、よくわかっていない創造系など)


だから、脳を休めるときには、目を閉じて意識を閉じる。



そのシステムを、さらに分割すると


1. 物体などが認識される。物体は、作動記憶と結びついて、

   その情報を保持し、それをフィードバックしながら使われる。
 
   これに脳の約4分の一が使われる 


2. 身体マップ、体性感覚と同期して使用される。
  
   体と連動して使うのに前頭葉が使われるが、運動野は

   視覚入力と連動してはじめて意味を持つ(ミラーニューロン)。


3. 聴覚と連動して、時間空間の融合した感覚世界を作る

   さらに、方向低位、身体位置低位に聴覚視覚融合感覚が使われる。
  

4. マップそのものを内部(頭頂葉)でもち、その内部マップが強調され、

   無視されるなどの修飾を受ける。それ自体が、意識として表現される。

   しかし、頭頂葉に意識があるわけではない。


5. 物体の視覚的要素の組み合わせによって、オブジェクトという「言語」が

   構成される。それによって、オブジェクトのインテリジェントな

   使い方ができる。 オブジェクトは、分解、再合成、どちらも可能である。



6. 現実のマップと相互作用しながら、身体を使うことができる。

   現実の地図と比較して、これは、認知地図と呼ばれる。

   記憶はこの地図にもとづいてなされる。



7. 脳内の内部感覚統合(=知覚)マップと自分の身体マップとの比較によって

   自己意識が生れる。 これによって自己を定義できる。



8. 自己を定義し、それを模擬することによって、他者を

   定義し、予測できる。この働きによって、コミュニケーションが

   可能になる。



このように、視覚系は、単に情報を空間的、時間的にマップする

だけでなく、ほかの目的、ほかのマッピングとの相互作用、さらに

環境への働きかけ、を目的として使用される。また、自分の内部で

マップを使って意識を生み出し、身体マップと照らし合わせて自己を定義

できる。


それゆえ、子供にとって、視覚の発達は最も早いし、老人にとって視覚の

衰退は最も遅い。 これは、生存にかかわる大問題だ。



視覚系の機能の発達と低下が、どれほどの意味を持つか、これは別途考える

必要がある。