楽しい理論のつくりかた

今まで、きちんとした理論体系を考えてこなかったが、学部、院時代の最初の5年(1989〜94年)も含めると、もはや20年選手であるぼくも、いよいよ本格的に理論を考える年になった。

ということで、脳神経系全般の理論を考えているのだが (研究者に週末はない)理論は、まずは具体的なものから抽象化、帰納する方法と、それとは別に理想的な普遍をまず考え、それを演繹(実現化)する場合の2つの側面がある。
 現実からすれば、脳の働きを帰納して、理想化すれば、と思うのだが、わかっていないこと、仮説もまだまだ多く、理想状態を考え、ある意味強引に演繹するしかない場合も多々ある。そこで、個別の分野で使われるモデル(理論までいかないが、実験データ、結果群を説明する論理的枠組み)を使って、それを換骨奪胎して、全体のモデルを構築する、という方法を採用している。 僕のターゲットは、大きく分けて3つあるので、これらを個別に理論化しなければならず、ある意味3人位の科学者のしごとなのだが、これらを独立に走らせ、さらにそれらを総合したものを考えなければならないので、結構大変だ。某脳の大家の先生が同じ方向で考えていてびっくりしたが、彼の場合、分子生物学からニューラルネットまで歴史的に知っているが知らないことも多い(大脳など、人間の振る舞い)ので、この辺が僕との違いであろう。比較してみると実に面白い。現実にもやすぽむ☆は、一体何が専門なんですか、などと聞かれる始末である(脳、情報工学、信号処理、数学、統計、知覚科学、情動心理、可塑性、認知科学、意識、生物学、生化学、薬学!)。

ちなみに僕の専門は、知覚測定、脳測定、神経生理測定、認知測定、心理測定、生化学測定、ともっぱら測定・実験屋なのだが、今年あたりから、本格的に理論とシミュレーションをも行うはめになりそうだ(その道具立てとスキルアップに余念がない)。道具としては、数学、プログラム、計測データ、統計、そしてデータフィッティングとモデリングである。もちろん、僕自身の脳神経系、それが作る意識、無意識も思考の道具である。また、他の研究の実験データも理論化の重要な道具、そして、新しく最近応用を考えているのが、医学的臨床データ、である。

理論化には、いろいろなレベル(分子レベル、神経システムレベル、行動レベル)とそれらの発展ステージがあり、それぞれがどこを目指して、何が知りたいのかを俯瞰しながらすりあわせをして、全体として整合性が取れていなければならない(これは、実際に実験を計画するときにも、具体的に考えなければいけない点だ)。

最近まで、自分でも自分がいったい何を考え、どこを目指しているのか、わからなかったが、テンソルというベクトルの概念を考えているうちに、自分の思考の方向がテンソルに見えてきたのには驚いた。 思考の方向どうしで相互作用して
ある一定の方向の群(テンソル)を作り出しているらしい。
そう考えると僕が学部時代に脳科学を目指したのが、自分を知りたい、という強い動機に基づいたものであったということがうまく説明できる。

まずは、脳の全体の枠組みと構造、その過程とそれらの目的について詳細に考えてみようと思っている。